フォード、インドでの自動車生産再開を検討 — タミル・ナードゥ州知事が発表

フォード、インドでの自動車生産再開を検討 — タミル・ナードゥ州知事が発表

米国の自動車大手フォード・モーター(Ford Motor、F.N)は、インドのタミル・ナードゥ州政府との間で、インドにおける自動車生産の再開を目指す協議を行っていることが明らかになりました。これは、フォードが3年前にインド市場から撤退した後、同国での生産を再開する可能性を示唆するものとして注目されています。

フォードは2021年にインド国内向けの自動車生産を終了し、その翌年には輸出用車両の製造も中止しました。これにより、フォードは事実上インド市場から完全に撤退する形となりました。インドは現在、世界で3番目に大きな自動車市場となっており、この市場をアジアのメーカーが支配している状況です。

フォードは、インド国内にあった2つの工場のうち1つを、2023年にタタ・モーターズ(Tata Motors、TAMO.NS)に売却しました。もう1つの工場はタミル・ナードゥ州チェンナイにあり、現在は閉鎖されたままです。この工場の運命に関して、フォードは引き続き最適な活用方法を模索しています。

タミル・ナードゥ州とフォードのパートナーシップ再構築の可能性

タミル・ナードゥ州のM.K.スタリン知事は、フォードのチームと建設的な協議を行い、過去30年間にわたる州とのパートナーシップを再構築し、世界向けの自動車製造を再開する可能性について議論したと語りました。スタリン知事は、X(旧Twitter)への投稿で「フォード・モーターズのチームと非常に有意義な話し合いができました。タミル・ナードゥ州における3つの十年にわたるパートナーシップを再び検討し、再び州での製造を世界に向けて行う可能性を探りました」と述べています。

インド市場におけるフォードのこれまでの歴史

フォードはかつて、インド市場向けに「エコスポーツ(EcoSport)」や「エンデバー(Endeavour)」といったSUVモデルを製造していましたが、同国の乗用車市場におけるシェアは2%未満にとどまっていました。インドでは、マルチ・スズキやヒュンダイなどのアジアの競合他社が強い影響力を持っており、フォードは長年にわたって販売ボリュームの拡大や利益の確保に苦戦していました。

フォードがインドでの生産を停止した理由の一つは、10年にわたる事業運営の中で、累積損失が20億ドルを超えたことです。新車の需要も減少しており、フォードは持続可能な形でインド市場でのビジネスを続けることが困難だと判断しました。さらに、地元自動車メーカーのマヒンドラ・アンド・マヒンドラ(Mahindra & Mahindra、MAHM.NS)との合弁事業契約が成立しなかったことも撤退の要因となりました。もしこの合弁が成立していれば、フォードは低コストでインド国内での生産を継続することが可能だったかもしれません。

フォードのグローバル展開とインドにおける将来の計画

フォードは、インドからの撤退後も、現地にあるリソースを完全に放棄したわけではありません。現在も西インドにある工場では、レンジャー・ピックアップトラック向けのエンジンを製造しており、グローバルな市場に向けた部品をインド国内のサプライヤーから調達しています。このような活動は、フォードがインドを単なる消費市場としてではなく、グローバルな供給チェーンの一環として見ていることを示しています。

また、フォードはインド市場での再参入について慎重に検討していると見られています。インドは今後も成長が見込まれる巨大市場であり、再び競争力を持って参入できる可能性があるため、フォードにとって魅力的な選択肢となり得ます。特に、インド政府が推進する電動化や持続可能なエネルギー政策は、自動車メーカーにとって新たなビジネスチャンスを提供するものです。

インド自動車市場の動向と課題

インドの自動車市場は、急速な経済成長と中間層の拡大により、今後も成長が期待されています。しかし、この市場で成功するためには、価格競争力や燃費性能など、消費者のニーズに応える戦略が不可欠です。多くのインドの消費者は、アジアメーカーが提供する低コストで高性能な車に惹かれており、フォードのような欧米のメーカーにとってはこれが大きな挑戦となります。

フォードが再びインドで生産を再開する場合、同社は価格競争力を強化し、地元市場のニーズに応じた製品ラインナップを展開することが求められるでしょう。また、電気自動車やハイブリッド車などの環境に配慮したモデルの投入も、インド市場での成功の鍵となる可能性があります。